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小さな学校の大きな挑戦

たまひじりのA知探Q 学びの玉手箱!
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聖ヶ丘ニュース
校長

【校長ブログ】今、アジアの東と西で

 新型コロナウイルス感染症が世界に蔓延する中、今、アジアの東西で民主主義との闘いが起きています。東側では20212 月に起きたクーデターに端を発し軍事政権が復権したミャンマー、西側ではこの8月にイスラーム原理主義勢力のターリバーン(タリバン)がほぼ全土を掌握し、暫定政権を樹立したアフガニスタンです。

 ミャンマーでは、この10年の間、自由な社会を経験した市民の多くが「もう二度と軍事政権時代には戻りたくない」という強い意志を抱き、抑圧的な軍部に対して抵抗運動を続けています。人権団体による報告(NHKニュース)では、818日現在、1006人の市民が国軍側に殺害され、7000人を超える人々が逮捕されています。、今でも市民への弾圧が続いています。著名人さえ指名手配されるという国軍のなりふり構わぬ行為は象徴的です。しかし、長引くコロナ禍と弾圧によって大規模なデモは影を潜め「フラッシュモブ」と呼ばれる短時間の散発的なデモで抗議を示す方法に変わっているそうです。こうした中、ミャンマーの住民たちは「抵抗の詩」を紡いでインターネット上で配信しています。詩人の四元康祐さんは、こうした無名の人々の言葉を日本語に訳して紹介し、連帯を訴えています。

 一方、アフガニスタンでは、9.11アメリカ同時多発テロ以降、20年間に渡ってアフガニスタンを支配してきたアメリカ軍が今年4月末に撤退を開始した反面、反政府武装組織のターリバーンが勢力を再拡大してドミノ倒しのように政府軍を制圧して行きました。結果的に、予想より早く815日にターリバーンが首都を制圧したため、国外へ脱出しようとする多くの市民が首都のカブール国際空港に押し寄せました。では、外国軍が去って国が統一されるのに、なぜ多くの住民が逃げ出そうとしているのでしょうか。それは多くの市民が90年代のターリバーンの強圧的な支配の記憶が未だに残っているからです。決してイスラーム教が人々を強圧的に支配するわけでも、女性を差別するわけではありません。しかし、たとえターリーバーン幹部層が、以前とは違うと言っても、人々は再び自由や権利が大きく制約されると感じているからです。

 国名の「-スタン」という語は「土地」を意味しますが、北東から南西に延びる渓谷に発達したアフガニスタンでは流域ごとに民族や生活文化、支配層が異なります。201911月に凶弾に倒れた中村哲さんを中心としたペシャワール会の生活復興活動は私達の記憶に新しいですが、アフガニスタンには国として全域を統治することの困難さがあり、多くの人々が海外からの支援を必要としているのです。本校図書館でも司書の馬場さんが「アフガニスタンコーナー」をつくってくださり、関連図書を展示しています。ぜひ手に取ってみてください。

 ミャンマーにしてもアフガニスタンにしても、武力による弾圧に抗いながら民主主義と自由の闘争を続けている人々のことを忘れてはいけません。たとえ武力に対する抵抗活動ができないにしても、常に世界の状況に知のアンテナを巡らし、抑圧された人々を思いやる気持ちを持つことが大切なのです。それぞれの責任において自由な意思と行動が保障されている社会の大切を感じつつ、叶わない人々への直接的間接的支援を考える人に育ってほしいと願っています。また同時にISIS-Kのようなテロ行為を封じ込める努力を続けることこそが、グローバル社会が求めていることだと感じてほしいのです。

 ただ、こうした現状に接した時、「こわい」「かわいそう」「きたない」などKから始まる感情的な言葉は、私たちを思考停止に導く言葉だと思います。これらの言葉を使う時には、一歩立ち止まって考えてください。

アフガニスタンに関する参考図書(図書館にはないものを中心に)

梅棹 忠夫(1956)『モゴール族探検記』岩波新書, 205ページ.

岩村 忍(1992)『アフガニスタン紀行』朝日文庫, 238ページ.

内堀 たけし(2004)『写真絵本 アフガニスタンの勇気と笑顔』国土社, 43ページ.

中村 哲(2006)『カラー版 アフガニスタンで考える 国際貢献と憲法九条』岩波書店, 51ページ.

中村 哲(2013)『天、共に在り アフガニスタン三十年の闘い』NHK出版, 260ページ.

金田 卓也(1982)『アブドルのぼうけん』偕成社, 37ページ.

小林 豊(1995)『せかいいち うつくしいぼくの村』ポプラ社, 41ページ.

デボラ=エリス・もりうち すみこ訳(2002)『生きのびるために』さ・え・ら書房, 167ページ.