【校長ブログ】大正月と小正月
正月は、先祖である年神を迎えて、一年の安寧と無病息災を祈願し、祝う風習です。家々に年神を迎えるにあたり、その依り代となるものが松の枝であり、これをあしらって松飾りにします。松の内とは、この年神が滞在する期間のことで、関東地方では7日までとする地域が多いようです。この間もしくは正月三が日は「祝箸」といって紅白の熨斗や寿の文字で飾られた箸袋に入ったものを使います。日本人の食事にとって欠かせない箸ですが、ここで使う箸は特別で、折れにくい柳の枝でつくった新しい箸を用意します。箸の両端は削ってあって、中央が膨らみをもっていることから豊穣を表し、長さは八寸(約24cm)と末広がりで縁起が良いとされます。両端が削ってある理由は、一方は箸の持ち主が、反対側を神が食べるとされ、人と神との共食を意味しているそうです。箸袋には持ち主の名前を書いておき、松の内はずっとこの箸を使います。これを「箸替え」と呼び、新年に箸も改めるものとされています。今でも老舗の料亭や割烹などでは、正月には常連客のために新しい箸を用意して手渡したりもします。
松の内が終わることを「松の内が明ける」と呼び、最終日には七草粥を食べてけじめとするのです。地域によって松の内の期間や粥の食べ方も違っていますが、意味することは同じです。この日、多くの地域では正月の飾りに使った松や去年のお札、祝箸などを集めて火にくべて焼く「どんど焼き」「お炊き上げ」という行事が行われます。大晦日・元旦から始まるここまでの正月を「大正月(おおしょうがつ)」とも呼びます。
というのは、この後15日から迎えるもう一つの正月があるからで、こちらは「小正月(こしょうがつ)」と呼ばれます。これは、かつて日本では月の満ち欠けを1ヶ月の基準(太陰暦)として暮らしており、人々は満月となる旧暦の1月15日に当たる日を「1年の始まり」として祝っていたことの名残で、望月(満月)を愛でたことに因んでいます。小正月には、赤い色は邪気を払うという中国の風習に因んで小豆を混ぜて炊いた粥を食べる風習があります。これは「小豆粥」「十五日粥」「餅粥(望粥)」とも言われ、古典の授業でもお馴染みの『枕草子』(第三段)や『土佐日記』(承平五年の条)でも取り上げられています。小豆粥、餅粥は新年の季語にもなっています。さらには、柳などの木に小さく切った餅や団子を刺したり、繭玉を刺す「餅花」を飾ったりして五穀豊穣を願っていたそうです。
江戸時代までは「元服の義」も小正月に行っていたため、かつて(1948~1999年)「成人の日」を1月15日としていたのはそのためです。現在では、制令の改定(ハッピーマンデー制度の導入)によって1月の第二月曜日に改められました。来年度からは民法の一部改正により、成人年齢の18歳に引き下げられ、成人を祝う式典の参加者を何歳からにするかは自治体で異なるようでニュースの話題にもなっています。
いずれにしても2週間続く2つの正月行事に共通していることは、五穀豊穣と疫病退散であり、いにしえの人々にとってこの2つが大きな関心事、願いだったことがうかがえます。新型コロナウイルスの変異種(オミクロン株)の急速な感染拡大による第6到来が懸念されていますが、15日から始まる大学入学共通テストに挑む本校32期生および中学・高校受験の皆さんの第1志望校合格を心より応援しています。努力は裏切ることはありません!