小さな学校の大きな挑戦

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聖ヶ丘ニュース
校長

【校長ブログ】児童労働を考える

 私は、毎週木曜日には武蔵大学で「人文地理学概説」の授業(2単位)を担当しており、人文地理学の成果と手法について半期15時間の講義をしています。こちらもコロナ禍の影響で約1か月遅れのスタートとなり、先週で第13回目『不平等の地理学』をテーマに主に児童労働について考えました。

 今回は、その一端を紹介しましょう。児童労働とは、「義務教育を妨げる労働や法律で禁止されている18歳未満の危険・有害な労働」を言います。国際労働機関ILOでは4年に一度、世界の児童労働者数の推計を公表しており、直近の2017年9月に発表されたILOの報告書 "Global Estimates of Child Labor: Results and Trends, 2012-2016” によると、全世界の児童労働者は約1億5200万人(男子8800万人、女子6400万人)と推計されています。これによれば、世界の子ども人口(5~17歳)のおよそ10人に1人が児童労働をしていることになります。世界人口に対してこれを多いとみるか少ないとみるか認識の差によりますが、それでも様々な努力でこの5年間に1億人も減っているのです。

 地域的にはサハラ砂漠以南のアフリカ地域とアジア・太平洋地域でほぼ同数の6000~7000万人、この2地域だけで全体の9割を占めています。仕事の内容では、自然を直接相手にする農林水産業などの第一次産業が7割を占めています。私たちの生活との関わりで言えば、チョコレートの原料であるカカオ豆、コーヒーなどの嗜好品の収穫と選別、綿花栽培と収穫などに多くの子どもたちが従事しています。他にもバングラデシュのジーンズやシャツの縫製工場、パキスタンのサッカーボール縫いつけなど単純な製造業(第二次産業)で働く子どもたちがいます。特に、製造業では過去の「反省」から分業化が図られ、服にビーズを縫いつける仕事、ボタンの穴を開ける仕事、チャックを取り付ける仕事など細分化され、縫製工程の全体像が分からないようになっています。私たちが格安な価格でTシャツやジーンズで買うことができるのも、体育の授業や部活動、休み時間に使うボールも、こうした労働に支えられているお陰と言えるでしょう。

 しかし、コロナウイルス感染症は、これら発展途上国の産業にも大きなダメージを与えています。感染者の増大と貧困な医療体制だけでなく、景気の悪化でバングラデシュの縫製産業だけでも約400万人が失業したとも言われています。もちろん児童労働根絶へ向けての活動は重要ですが、ここで働き口を失った子どもたちとその家族の生活は、どうなって行くのでしょうか。私たちが解決策を考え、支援することは、もっと根の深いものなのです。

 さらには、児童労働のうち子ども兵士や人身売買を含む危険・有害労働に従事する子どもは7300万人に上り、現状のペースではSDGsの目標に掲げられている 2025年までには全廃はおろか、その時点で 2000 ~3000万人程度の減少にしかならないとも指摘されています。7月24日に報じられた国連発表では、アフリカのナイジェリア北東部では、過激派がこの3年間に拉致した203人の子どもを使って爆弾テロを行ってきたと、伝えています。しかも、その約8割が少女で、爆弾を身体に巻き付けて大人の戦闘員が遠隔操作で起爆する方法が取られてきたというのです。

 このような現状をどのように考えるかは、大学生でなくても中高生でも十分「学び」の対象になります。論文やグループディスカッション、口頭試問など大学入試でも、児童問題について皆さんの考えが求められたりします。しかし、「かわいそう」という言葉や、「なくすべきです」と答えるだけではダメなのです。では、どのように考え、答えたら良いのでしょうか。こうした思考の訓練こそが、これから皆さんが挑戦する総合型選抜という新しい大学入試に向けたひとつの訓練ともなり、将来的にはSDGsなど大きな社会的貢献の礎となるものと期待しています。

参考文献 

藤野 敦子(1997)『発展途上国の児童労働:子だくさんは結果なのか原因なのか』明石書店