小さな学校の大きな挑戦

たまひじりのA知探Q 学びの玉手箱!
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聖ヶ丘ニュース
校長

【校長ブログ】先輩に学ぶ

 先月末、本校19期生の志田 淳二郎(29)さんが聖ヶ丘を訪れ、後輩の皆さんへの参考にしてほしいと一冊の書籍を持参されました。タイトルは『米国の冷戦終結外交 ジョージ・HW・ブッシュ政権とドイツ統一』(有信堂)2018年に中央大学大学院法学研究科に提出・受理された博士論文の一部をまとめたものです。28歳という若さで法学博士号を取得した人を、私はこれまで知りません。文系の博士号取得年齢が欧米の大学事情に合わせて早くなったとはいえ、一般的には理学博士や医学博士と比べて文系の場合はある程度の研究実績と経験を重ねてから取得するものと思っていました。

 志田さんは、お兄さんも本校16期生(現:桐光学園「数学科」教員)で兄弟二人とも聖ヶ丘の卒業生です。志田さんは、本校在籍中は6年間サッカー部に所属し、キーパーとして熱心に練習に励む一方、学業に励みいつも成績はトップクラスでした。しかも、部活動を学習の励みとして高校3年の夏の終わりまで活動し、決して塾に通うことなく学校の授業と講習をうまく利用して、現役で中央大学法学部に進学しました。ただ中央大学が第1志望校ではありませんでしたが、これをバネとして奮起し、学問への熱意と才能・集中力を発揮し、修士課程も博士課程も「飛び級」で他の先輩や同級生を尻目に母校の助教として就職したのです。これだけでも、すごいことですし、無駄に長く大学を3つも転々とし春を謳歌していた私には頭が上がりません。

 さて、志田さんの博士論文の研究対象は、1991年に起きた歴史的に大きな出来事、「東西ドイツの統一」です。皆さんも、前年の『ベルリンの壁』崩壊の映像は後にCMにもなりましたし、統一に関しては中学3年生や高校2年生での「公民」「政治経済」や「歴史」の授業で学習する(した)ことでしょう。そんな大きな題材について、当時のアメリカ合衆国G.H.Wブッシュ大統領の戦略思考を、公開になったばかりの外交文書をアメリカ合衆国にて公開条例に基づき閲覧請求をして追求したものです。東西ドイツの統一は、ヴェトナム、朝鮮半島と同様に第二次世界大戦後に分断された民族の統一というだけでなく、米ソ東西冷戦という緊張関係がどう動くのかという意味でも大きな話題でした。いや、今でもその影響は続いているとも言えるでしょう。志田さんは、こうした現代政治とその時代的意義について研究しているのです。

 ともかく、私たちがメディアを通して知り得たことと、政治家の取った政治的駆け引きと戦略について、正面からその全容解明を迫った大著であり、今後の世界を見据えた現代的意義のある示唆に富む作品です。それゆえ、論文を書き上げて以降、志田さんはアカデミックの世界だけでなく、外務省や防衛省の研究会にも呼ばれて講義をしているそうです。

 つい人は結果だけを重視し、追い求めがちですが、結果に至るまでの事実の積み重ねを客観的に冷静な学問的視点から丹念に追い求めることに大きな意味があります。「社会に役立てばいい」という薄い実学志向の中、日本の大学では文系学部は危機的な状況にあります。残された数多くの公的資料を公文書館に保管するだけでなく、広く内外に公開し、主権者である市民の虚実を明らかに検証していく作業が重要です。確かに法律はでき、収蔵する建物もできましたが、そこに収めるべき資料の選択と保管に関して、経済優先の日本の現状を見るにつけ、未来に禍根を残すかも知れないと危惧する状況です。

 志田さんのように、これからも多くの若手研究者が政策を検証し、時代性を明らかにして近い未来の幸福の追求に役立ててほしいと願っています。末尾になりましたが、志田さんに著作の寄贈を感謝するとともに、これからの活躍にエールを送ります。

 なお、寄贈していただいた著作は、図書館の開架図書として利用できるようにしておきます。

〈略歴〉

 1991年茨城県日立市に生まれる。

 2009年多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校卒業

    中央大学法学部政治学科入学

その後、中央ヨーロッパ大学(ハンガリー)政治学部修士課程修了

中央大学大学院法学研究科博士後期課程修了。中央大学助教、笹川

平和財団米国(ワシントンD.C.)客員準研究員を経て、現在、東京福

祉大学留学生教育センター特任講師