小さな学校の大きな挑戦

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聖ヶ丘ニュース
校長

【校長ブログ】部活動再開に思う

 一昨日の高校3年生「記述模試」終了を待って、昨日より放課後の部活動が再開されました。今のところ、中学・高校ごとに活動時間や活動場所など制約はありますが、本校では「豊かな人間関係を築くと同時に、社会性を養い、学業への意欲を刺激とする」ためと、部活動を位置づけています。もちろん、中学新入生の皆さんにとっては、部活動は学校生活の大きな魅力の一つだと思います。ただ、文部科学省、スポーツ庁、文化庁など多くの教育関係者の間で指摘・議論されているように、部活動の役割と位置づけについては、偏った根性論や勝利至上主義、集団主義優先に走ることなく、学校における「教育課程外」の副次的役割であること、学業を第一に考え、それを補完する役割という意味を正しく理解しておくことも重要です。

 また、今年度でいえば、新入生は2月の入試以前から数えるとほぼ1年の長きに渡って積極的な活動はしておらず、勢いづく気持ちとは裏腹に身体は思うように動かないのが実情です。また、小学校課外活動の時とは違い、練習メニューも高度に専門的となり、運動部では一気に運動量が増えます。同時に、7月に入り、気温や湿度の上昇もあって屋内外を問わず、適度な休憩とこまめな水分補給が必要です。決して無理せず、無理させず、聖ヶ丘らしく優しく思いやりをもって参加するようにしましょう。いきなり全国トップクラスまがいの練習を強いることはないのです。低学年の皆さんは、ゆっくり焦らず参加し、高学年の皆さんは各自が持つ個性を引き出すようにアドバイスをお願いします。

 併せて、聖ヶ丘にはない競技・分野で努力を重ねている諸君がいることも誇りに思います。

 さて、私は中学・高校と、6年間陸上競技部に在籍し、日々活動をして来ました。私が教員という仕事をしている理由の一つには、高校時代の顧問の先生との出会いがあります。何と言っても私が選んだ高校(当時は公立の男子校、現在は改編され共学校)は、全国レベルの部活動で先輩達には全国1位や2位、箱根駅伝選手となった著名な先輩たちがいました(他競技では金メダリストおり、今でもほとんどの部活動が全国大会レベルです)。ですから、インターハイ(全国高校総体)に出場することが当たり前という風潮の中で育ちました。私自身は400メートル走や800メートル走を専門種目として取り組んでいました。結果、何とか地方ブロック大会を突破し、インターハイまでは行きましたが…。当時の私の記録を抜く選手が、今のところ聖ヶ丘にはいないのは残念です。

 ただ、顧問の先生は、陸上競技の専門家でもなく日本体育大学の体操部の出身でした。卒業してからも毎年正月2日に先生のご自宅で開催されるOB会に参加し、教員となりたての頃には社会人である神戸製鋼チームの練習に参加して練習法を習得した話、本来の部活動の在り方など、いろいろな話をお聞きしました。その時の数々の言葉は、今でも「私の宝物」です。ただ私は、担任や周囲の期待を裏切って体育学部への道には進みませんでした。それは、競技者としての限界と、それ以上に興味を持ったことがあったからです。

 高校3年生になると、京都大学出身の「地理」の先生から自主ゼミと称して古地図を広げて歴史地理学の手ほどきを受けたことが、学科(専攻)決定の契機でした。また、自宅は親の趣味でたくさんの本に囲まれていましたが、先生からは岩波新書の中で地理学に関連するものをすべて読むようにとの課題が与えられ、受験勉強そっちのけで友人と二人で競って読んだことを思い出します。しかし、呉服商を営む自宅周辺には映画館や劇場が複数あり、その世界にものめり込んで行きました。

 こうして、放課後は部活動、夜は読書や映画を友とする高校生活もあっという間に過ぎ、気がつけば高校3年の秋。さすがに「いつまで走っているの?」と、受験勉強への遅れを周囲からも言われるようになりました。しかし、ここからが部活動で鍛えた体力がものをいうのです。正味3か月で5教科7科目という受験科目を完成・制覇しなくてはなりませんでしたから。自宅での受験勉強を確保するためには、学校の授業をいかに効率よく利用し、理解するかが課題で、3年生の時の担任は英語の時間に、「一度聞いたら何でも覚える!」と口癖のように言っていました。ここで身に付けた集中力と体力は、その後の研究やフィールドワークで大いに役立ちました。

 結果として3つの大学で学び、ひょんなことから29歳で遅咲きながらも都立高校の教員となってからは、「地理」の指導・研究と同時に、陸上競技部のほか、大学時代に覚えた山岳・ワンダーフォーゲル部、女子バスケットボール部、趣味の美術部などの顧問に携わってきました。40歳代後半までは、毎夏、陸上競技部の1週間の合宿が終わると、洗濯も乾かない2日後には10数名の生徒と一緒に20kg以上のザック背負って34日のテント泊で南北の日本アルプスを縦走するという生活が続き、夏休みはほとんど家にはいませんでした。この間、生徒のお陰で陸上競技と山岳競技(登山)3度も関東大会を経験することができましたし、多摩大聖ヶ丘でも生徒は頑張り女子400メートル走でインターハイにも2度出場を果たしました。

 今でこそ登山ブームですが(でも今年はコロナ禍で山小屋は閉鎖)、当時の高校生たちにとっては重い大きなザックを抱えて電車に乗ることさえ恥ずかしかったようで、生徒を励まし競う意味で山での自炊料理に腕を磨き、楽しむことにしました。日本の高山ランキング10番目までの多くの山の頂きに2回以上は登り、標高2500メートルの山中でステーキ、押し寿司、鰻、ピザなど貯蔵法と調理法を工夫して周囲の大人の登山者らに匂いと味で差をつけました。こうした楽しみを見つけることができたのも、生徒ともに汗を流した(正に登山は…)部活動のお陰です。ただ、都立高校とは言え、学習を忘れてはいけません。当時、私の勤務した都立高校では、半数が専門学校へ進学し、大学進学と就職・公務員がそれぞれ17%という学校でした。家庭での学習習慣がほとんどない生徒たちが多く、最後となる学校教育の意味を受け止めてほしく、練習後の1時間は学校に残って830分まで一緒に学習しました。その甲斐あって、決して上位校とは言えないまでも塾に通わず国立大学にも何名かは合格することができました。

 ただ忘れてはならないのは、部活動もしかり、科学のもつ意味は「再現性」「客観性」であり、単なる経験の反復ではありません。冒頭にも記しましたが、感情論ではなく、専門家による近代的なトレーニング法が大切なのです。

 研究仲間にも、高校時代は部活動に打ち込み、転じてそのエネルギーを研究に注いだという人物は多くいます。さて、皆さんも部活動や趣味を学習の励みにして、どうぞ高見をめざしてください。これからの皆さんに期待しています。

*スポーツ庁(2018)「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」

*文化庁(2018)「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」