【校長ブログ】ハーレムの熱い日々
表題はフォトジャーナリスト吉田ルイ子さんの作品名で、大学時代に読んだ中で印象に残る一冊です。ジャーナリズムを志してコロンビア大学で学んだ彼女の写真集にまつわるエピソードが綴られており、読み進めて行く内に身体の熱さを感じたことを今でも覚えています。教員になってからは、この想いを追体験してほしくて、長い間、高校生の課題図書に指定していました。
舞台となったニューヨークのハーレムや背景の公民権運動については、私自身の学生時代の東アフリカでの留学経験も重なり一定の理解はありました。しかし、M.L.キングJr.やマルコムXらの率いる公民権運動が全米で最盛期を迎えていた同じ時、当時小学校4年生だった私の住んでいた日本では、東京オリンピック=ブームに酔いしれ、彼方の社会的問題にはさしたる関心がなかったのでした。それから4年後のメキシコ=オリンピックで、日本のマスメディアも表彰式で黒い手袋で拳を掲げるアメリカ人選手による「抵抗」の証を学ぶのでした。
翻って、現在のアメリカ合衆国はどうでしょうか?全米で40を超える都市で夜間外出禁止令が発令され、国民を分断するかのような指導者の発言に「抵抗」の意思表示をする群像の姿が映し出されているのです。スポーツ選手も芸能界でも、自らのSNSに黒い四角を掲載し、意思表示を示しており、日本でも多くの人々が声を上げ始めています。人種という学問的にはまったく意味をなさない歴史の遺物に翻弄されるアメリカ合衆国。改めて科学教育の大切さを再認識すると共に、成熟した民主主義が浸透したアメリカの政治風土と自由さに驚くばかりです。やはり、アメリカは懐広く、その底力は偉大なのだと。
日々の些細な出来事に感情的な発言を繰り返すのではなく、広く社会に目を向け、本質に迫ることの大切さを教えてくれた作品との出会いと育った生活環境が、今の私の底流にあります。改めて、差別の持つ愚かさについて考えさせられました。教科書を使った知識学習も大切ですが、本物の学びは広く楽しく、また与えられるものではなく、皆さん自身が考え悩むことで初めて獲得できるのです。皆さんのこれからに期待しています。
*吉田 ルイ子(1979)『ハーレムの熱い日々』講談社文庫